2019年10月の消費税増税まであとわずか。自社の取引を早急に見直しを! ――流通BMSセミナー2018 TAX Effect 軽減税率制度/IP網以降への対応――

2018.11.26

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 2019年10月に迫った消費税の増税。軽減税率の導入により、このまま小売業と卸売業・メーカーの間で利用しているシステムを放置しておくと、仕入税額控除ができない可能性も指摘されている。さらに追い打ちをかけるのがIP網への移行に伴い、21年1月にはアナログ回線の通信に遅延が発生する可能性があり、24年1月以降はNTT東西が提供するINSネットが使えなくなってしまうことだ。
こうした危機に対応するため、18年10月から11月にかけて東京、大阪、仙台、札幌、福岡で開催された 「流通BMSセミナー2018 TAX Effect」では、軽減税率制度におけるシステム対応ついて解説し、IP網移行の最新情報とユーザー企業における対応策を紹介した。今回は10月30日に開催された東京会場での模様をレポートする。

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「INSネット(ISDN)」の終了で固定電話はどうなるか

 プログラムの最初は、NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門ネットワークサービス担当課長の山内健雅氏が、固定電話のIP網への移行後のサービスおよび移行スケジュールについて説明した。

 

 NTT東西が既存の電話網をIP網に切り替える「PSTNマイグレーション」を進める背景には、音声を取り巻く環境が変化していることと、既存の電話網で利用している交換機が25年に寿命を迎えることにある。21年1月からは他事業者とのIP接続が可能になり早ければこのタイミングでIP網に移行される場合がある。他事業者を利用している場合はこのタイミングで遅延等が発生する可能性がある。ただし、基本的な考え方として現在使っている固定電話を維持していく考えに変わりはない。「利用中の電話機は設備切替後も変わらず使うことができ、切替にともなう手続きは不要」と山内氏は説明する。

 

 一方、IP網で提供できないNTT東西のサービスは終了する。INSネット(ディジタル通信モード)はそのひとつで、IP網への切り替えが終わる24年1月の終了が確定している。代替手段は、IP対応端末への更改と光回線等によるIPサービスへの移行となる。光回線が未提供なエリアの利用者や、終了時期までの端末更改が困難な利用者に対しては当面の対応策(補完策)を提供する。ただし、この補完策は同一の品質ではなく、あくまで一時的な対応との位置づけである。

 

 NTT東西では切替に向けて、18年12月には契約者にDMを送付してサービス終了をアナウンスするほか、移行の手順をまとめた冊子を配布する予定だ。さらに専用コールセンターを用意し、営業担当が直接訴えかけていくという。最後に山内氏は「NTT東西としても丁寧にお知らせしていくが、軽減税率やシステム更改などのタイミングに合わせて早急な対応をお願いしたい」と呼びかけた。

 

 

インボイス制度への対応方法を財務省の担当者が詳しく解説

 続いて、19年10月に実施が予定されている消費税の増税に伴う軽減税率制度における事業者のシステム対応について、財務省 主税局税制第二課 課長補佐の加藤博之氏が説明した。

 

 消費税率10%への引上げと同時に、酒類・外食を除く飲食料品と一定の新聞の譲渡を対象に消費税「軽減税率制度」が実施され、経過措置として設けられた区分記載請求書等保存方式が導入される。また、その4年後の23年10月には適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入され、事業者は対応を迫られる。

 

 インボイス制度では、現行の請求書に求められる記載事項に加え、軽減対象資産の譲渡である旨と、税率ごとに区分して合計した対価の額、登録番号、適用税率、消費税額を記載する。ただし、インボイスの記載事項は1つの書類のみで満たしている必要はなく、相互の関連が明確な複数の書類(納品書や請求書など)全体で満たしていれば、複数の書類をまとめてインボイスとすることができる。支払通知書のインボイス対応についても、課税仕入の相手方の確認を受けたものであれば、仕入明細書による仕入税額控除が認められる。

 

 返品があった場合の対応については、売り手から買い手に対して「適格返還請求書(返還インボイス)」を交付する必要がある。返還インボイスの記載事項のうち、「返品等に係る課税資産の譲渡等を行った年月日」については、正確な年月日が特定できない場合は月レベルでの記載までは認める方向で議論されている。請求レス対応(仕入明細書)による仕入税額控除も認められ、対価の返還等がおこなわれた場合、買い手が返還インボイスの記載事項を記載した返品伝票や仕入明細書を作成し、売り手の確認を受けることで売り手の返還インボイスの交付は不要になる予定だ。「制度上は用意されていなかったが、皆様の実務にうまく溶け込むように運用でカバーする方向で考えている」と加藤氏は説明する。

 

 値引きをおこなった場合の適格簡易請求書については、軽減税率対象と標準税額対象を一括して値引きをした場合、値引額を合理的に区分しなければならない。値引額を按分しなければいけないといった誤解があるが、例えば標準税率対象からのみ値引きしたとしても、値引後の対価の額または税率ごとの値引額が領収証等で明らかなら合理的と認められる。

 

 最後に加藤氏は「インボイス制度への対応を考える前に、まずは適用税率を整理して、それを踏まえたうえで検討に着手して欲しい」と訴えた。

 

 

飲食料品を取り扱う中小企業には受発注システム改修のための補助金を支給

 続いて、消費税増税に伴う軽減税率対策の補助金について、独立行政法人中小企業基盤整備機構 経営支援部 消費税軽減税率対策費補助金統括室 参事の前田和彦氏が説明した。

 

 軽減税率対策補助金とは、複数税率に対応するための補助金のことで、中小企業が受発注システムを改修する場合に活用できる。対象となるのは、現在EDIを使っていてかつ、軽減税率の対象品目(飲食料品)を扱っている卸売業・小売業等の中小企業だ。補助金の上限額は、対象となる経費の3分の2で、発注システムなら1,000万円、受注システムなら150万円、受発注システムの両方なら合わせて1,000万円と決められている。補助金対象範囲外の機能を含むパッケージ製品・サービスも対象となるが、購入費用の2分の1が補助経費とし、それに補助率を乗じることになる。

 

 補助金申請の対象期間は、19年6月28日まで。それまでに交付申請を行い、19年9月30日までにシステム改修・入替を完了させることが条件だ。事業完了報告書は19年12月16日までに提出する。補助金の申請にはITベンダーの協力も必要になるが、指定事業者の数は18年10月時点で537社に達している。清水氏は「小売・卸事業者の方は、EDIで取引している中小企業に対して、IT関連企業の方は飲食料品を扱う中小の小売・卸売業のお客様に対して、軽減税率制度への準備のためのシステム改修を促し、軽減税率対策補助金の情報を提供して欲しい」と呼びかけた。

 

 

卸研と日食協は流通BMS軽減税率対応チェンジリクエストを提出

 続いて、国分グループ本社株式会社 情報システム部 物流システム二課の平田幸則氏が、流通BMS協議会事務局 ソリューション2部の坂本真人氏とともに、軽減税率対応に向けた流通BMSのチェンジリクエスト(CR)について説明した。

 

 INSネット(ディジタル通信モード)の終了と消費税の軽減税率対応が重なり、流通業界はシステム改修の波にもまれている。これらに対応するため、卸売業の情報化課題を研究する情報志向型卸売業研究会(卸研)は、一般社団法人 日本加工食品卸協会(日食協)の軽減税率システム専門部会と共同で、流通BMSによる一括対応で解決を図ることを構想した。卸研と軽減税率システム専門部会は18年5月に日食協のEDIワーキンググループに検討を要請し、「流通BMS軽減税率対応チェンジリクエスト分科会」を結成した。

 

 その中で、19年10月に経過措置として始まる「区分記載請求書等保存方式」と23年10月からの「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」を比較したところ、インボイス制度での改修インパクトが大きいことから、最初のCRは影響範囲が小さい区分記載請求書等保存方式を対象とし、現行仕様への追加・変更は可能な限り抑える方針とした。

 

 区分記載請求書等保存方式による変更要件で、「発注~受領・返品」における課題は、1伝票番号内に複数の商品が混在した場合、税率ごとに合計した対価額が必要になることだ。流通BMSでは、各メッセージ項目・構造の変更が必要になる。仮に発注メッセージの項目・構造を変更すると「発注~受領・返品」の全メッセージのバージョンが変わってしまい、現在運用中の流通BMSの変更作業が発生する。そこで「発注~受領・返品」の業務プロセスは、1伝票・単一税率での運用とすることで影響範囲を最小化した。

 

 もう1つは「請求・支払」の課題だ。区分記載請求書等保存方式では、請求メッセージ上に1伝票単位に税率別の対価の額の合計額を示し、1請求あたりの税率毎の税額を持つ必要がある。しかし、流通BMSの請求メッセージでは1伝票番号内で複数税率の表現できず、1請求あたりの税率毎の税額を持つことができない。そこで、1伝票単位の税率別合計額については、1伝票・単一税率とする運用でカバーすることとし、1請求あたりの税率別の税額については請求メッセージ項目・構造はそのままに、必要な要件項目を新規で追加した請求鑑メッセージ追加策で対応することとした。

 

 上記の「発注~受領・返品」と「請求・支払」をまとめたCRは18年9月に提出され、流通BMS協議会のメンテナンス部会で審議が行われている。11月中にはCRへの回答が公表される予定だ。平田氏は「今回は区分記載請求書等保存方式をターゲットにCRをおこない、運用対応策と新メッセージの追加で現行運用中の流通BMSに大幅な手を加えない方法とした。今後、23年10月のインボイス制度や返還インボイスへの対応に向けてさらなるCRが必要になる。引き続き調査・検討を重ねていくので、みなさんの協力をお願いしたい」と語った。

 

 

花王グループのIP化・軽減税率対応はどこまで進んでいるか

 最後は卸からみたIP化と軽減税率対応の状況について、花王グループカスタマーマーケティング カスタマートレードセンター 流通システムコラボG マネージャーの川口和海氏が発表した。

 

 INSネット(ディジタル通信モード)の提供終了に向けたIP網の切替開始まであと2年2カ月、軽減税率開始まであと1年と迫る中、花王の流通BMS対応状況は18年9月時点で累計438社、EOS受注金額構成比で60%となっている。残り40%のうち約25%(200社)は今後の導入を予定しているが、約4%(262社)は未定となっている。IP網の切替が始まる2021年1月までの2年で年間204社の流通BMSへの移行が必要で、マッピング修正やテスト不具合などのトラブルを想定すると1日1社の導入が必須の状況だ。「導入時はマッピングシートを活用し、標準メッセージ作成と運用ガイドライン遵守が大前提となる。特に小売業・卸業界団体とIT企業の3者間の連携が必要で、IT企業の意識レベルの高さが求められる」と川口氏は指摘する。

 

 軽減税率について、個別対応となる方法は基本的に「請求書」送付で対応する予定だという。つまり、流通BMSはEDI継続が可能だが、JCA等、流通BMS以外の取引はEDIの継続が困難になる可能性が高い。その結果、個別対応が困難になるため、紙の対応に後退せざるをえない。仮に花王の請求書明細を伝票番号から商品明細に切り替えた場合、伝票の発行枚数は従来の24万枚から96万枚増えて120万枚、1送付先あたり従来の150枚から約600枚増えて750枚となる見込みだ。それによって、人手による業務増加や保管場所の確保、人件費や廃棄費用の増加などのデメリットが発生する。「コストや負荷の軽減のためにも極力早期に流通BMSに移行することが有効な解決策になる」と川口氏は語る。

 

 23年10月にはインボイス対応も控え、返還インボイスへの準備も必要になる。卸研の活動でも19年10月を目標に標準化策定を検討中で、CR申請に向けた準備を進めている。川口氏は「IP化対応、軽減税率対応、インボイス対応とそれぞれのイベントに対して、流通BMSは業界標準対応が可能になる。流通BMSは売り手と買い手がWin-Winになるためのもの。インフラ領域で標準化を図ることでさらなる効率化が進んでいく」と語って講演を終えた。

 

 

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