Fintech(フィンテック)がもたらす未来と金融EDIで実現する業務の効率化 ――流通システム標準普及推進協議会 2018年度通常総会――

2018.5.28

株式会社マネーフォワード
執行役員 社長付渉外・事業開発責任者

神田 潤一 氏

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 近年注目を集めるFintech(フィンテック)。日本でもスマートフォンや人工知能を使った金融サービスが続々登場し、キャッシュレス決済が拡大を始めている。18年5月10日に明治記念館(東京・港区)にて開催された18年度の流通システム標準普及推進協議会の年度総会では、日本を代表するFinTechスタートアップで、個人向け家計簿アプリやクラウド型ERPで知られる株式会社マネーフォワードの神田潤一氏が登壇し、「金融EDI やFintechで実現するバックオフィスの効率化」をテーマに講演した。

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家計簿アプリやクラウド型ERPを提供するマネーフォワード

 「お金を前へ。人生をもっと前へ。」をミッションに、個人や法人のお金に関する課題を解決するサービスを提供しているマネーフォワード。同社が提供する個人向けサービスの中でも、特に有名なのが家計簿アプリの「マネーフォワード」だ。レシートをスマートフォンのカメラで読み取って日々の買い物を管理するだけでなく、銀行、証券会社、クレジットカードの情報も一括で管理ができる。利用者数はすでに600万人を突破し、家計簿アプリの中でもトップクラスのシェアを維持する。

 

 法人向けには中小企業向けの経理・会計系クラウドサービス「MFクラウド」を提供。同サービスには人工知能で仕訳ルールを自動学習する機能があり、わずらわしい会計作業を自動化することで、企業の生産性向上に大きく貢献する。

 

 神田氏は大学卒業後、94年に日本銀行に入局し、23年余りにわたり在籍。15年には金融庁へ出向し、Fintechに関する法制度の見直しや、金融EDIの検討などに従事してきた。17年に日本銀行を退職してマネーフォワードに参画。同年12月に執行役員に就任した。そのため、Fintech業界の中でも「官」と「民」の両方がわかるキーマンとして注目されている。今回の講演では、Fintechの基礎からFintech推進のための政府の施策、さらにはクラウドを利用した中小企業の生産性向上の仕組みなどについて解説した。

 

 

日本でも急速に進むFintechとは?

 Fintechとは、文字通り「金融(Finance)」と「情報(Technology)」の2つをかけ合わせた言葉で、ITを活用した革新的な金融サービスのことを指す。スマートフォンの普及により日本でも急速に拡大し、Fintechのスタートアップ企業が登場している。先行する海外では、日本より速く危機感を持ってFintechが進められてきた。中でも欧米の銀行では、ITイノベーションの取り込みを目的とした、IT・ネット企業等との戦略的な連携・協働が活発化している状況がある。

 

 こうした海外の動きを受けて、日本政府でも15年頃からFintechを推進する動きが出始めた。その施策のひとつが、16年に政府が名目GDP600兆円に向けて設定した「日本再興戦略2016」だ。日本再興戦略2016では、「官民戦略プロジェクト10」を設定し、1つの施策として、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットを活用した「第4次産業革命」を掲げた。Fintechはその中で、オープンイノベーションを活用してエコシステムを形成することを具体的な目標に設定された。「エコシステムとは、大学や研究機関、技術者、起業家予備軍、弁護士・会計士、ベンチャーキャピタル、大企業、ファンドや機関投資家などが提携しながら起業家に助言し、資金を提供することです。アメリカのシリコンバレーではすでに確立されている手法で、日本再興戦略2016では日本版のエコシステムの形成を目指しました」と神田氏は説明する。

 

 その一環として、日本でも16年9月にFintechをテーマにしたグローバルイベント「Fintechサミット」の1回目が金融庁・日本経済新聞社・Fintech協会の共催で開催され、大きな注目を集めた。神田氏も事務局のスタッフとして、企画の実現に向けて政府との調整業務に奔走したと言う。

 

 当時の日本には仮想通貨にかかる法制度の整備も急がれていた。15年には仮想通貨(ビットコイン)の不正流出事件を起こした交換所のマウントゴックスが破産手続きを開始したり、世界的にも仮想通貨がマネーロンダリングやテロ資金に使われる事件が発生したりしたため、仮想通貨の交換所の免許制や顧客の本人確認が求められるようになった。それに合わせて仮想通貨の交換業者に対する登録制を導入し、17年4月から施行された。利用者保護のためには、金銭や仮想通貨の分別管理ルールを設定。マネーロンダリング対策として、口座開設時の本人確認を義務付けた。消費税についても仮想通貨の譲渡については非課税とする改正を行っている。

 

 「法整備と同時に日本ではビットコインが盛り上がり、17年は日本がビットコインの最大取引国になりました。18年には仮想通貨取引所のコインチェックによる仮想通貨の大量流出事件が起きて大騒動となりましたが、この事件で法整備がクローズアップされたことは記憶に新しいと思います」(神田氏)

 

 

決済高度化(XML電文への移行)とFintechの関係

 法整備と並行して、決算の高度化に関する取り組みも銀行業界主導で進められ、XML電文への移行が行われた。従来の企業と金融機関間の振込依頼および入金通知を行っていた全銀システムでは、固定長形式の電文を採用していたため自由記載文が20文字に限定され、情報が制限されていた。それに対して、XML電文では自由記載文が無制限になり、商品名、納品日、数量、支払方法などの情報が自由に電文メッセージに付加できるようになった。これにより、企業間の支払いの消込作業が大幅に軽減。流通業・製造業に対して実施した実証実験では、受取企業で年間約400時間から約9,000時間の決算関連事務の合理化効果が現れている。

 

 XML電文のスキームは「全銀EDIシステム」として18年12月に稼働する予定で「ZEDI ゼディ」という愛称が付けられた。「Fintechの持つ力と、金融EDIが連携することで、将来的には受発注や経理などの企業の川上から、決済や債権管理などの川下まで、プロセス全体がITで処理される流れが作られることが期待されています」と神田氏は語る。

 

 Fintechは、17年に政府が推進する「未来投資戦略2017」においても、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の社会「Society5.0」に向けた戦略分野に位置付けられ、「オープンイノベーション/キャッシュレス化の推進、チャレンジの加速」を目標に掲げられた。その中では銀行によるオープンAPIやクレジットカードデータの利用にかかるAPI連携が定められた。17年6月には銀行法が改正され、オープンAPIが導入されている。改正前は、Fintech事業者などの電子決済等代行業者は、銀行の同意を得ずにユーザーのIDやパスワードなどの重要な情報を取得できることになっていたために、セキュリティー上の問題からFintechサービスの利用を躊躇する人が多かった。改正銀行法ではFintech企業を登録制とし、金融機関は顧客のデータをパスワードやIDを使わずに仲介システム(オープンAPI)を介して安全に渡せるように改められ、安心してFintechのサービスが利用できるようになった。

 

 金融EDIとオープンAPIの活用事例としては、契約・決済プラットフォームが構想されている。具体的にはインターネット上の新サービス内で2社の企業が請求と支払を行う中で、新サービスが請求企業の債権を買い取り、EDI情報と共に入金を行う。銀行は企業の情報照会にオープンAPIを活用する。

 

 「金融EDIの価値を向上させるためには、支払企業がEDI情報を付加しやすること、受取企業がEDI情報を利用する手間をなくすこと、消込の価値の向上のために支払期限を短縮して全明細にEDI情報を付加することです。契約・決済プラットフォームではこの課題解決を目指しています」(神田氏)

 

 

クラウドを利用した中小企業の生産性向上

 続けて神田氏は、クラウドを利用した中小企業の生産性向上の取り組みを紹介した。マネーフォワードの「MFクラウド」は、中小企業のバックオフィス業務を効率化するためにリリースされたものだ。従来の会計ソフトと異なり、点在している情報を自動的に取り込むことでミスが軽減でき、帳票類は電子化される。AIを用いて取引明細の情報から勘定科目を自動で提案したり、仕訳ルールを自動で学習して次回以降の仕訳に反映させたりすることもできる。これにより、利用者はデータ入力の作業負荷が軽減でき、人為的なミスの削減にもつながる。すでに飲食業を中心に多くの企業で採用されている。金融機関が活用している事例もあり、金融機関は顧客の会計データと銀行口座のデータを組みあせて瞬時に与信審査をすることで、早ければ即日、遅くても1週間以内で融資の判断ができるという。

 

 

Fintechがもたらす未来

 Fintechの今後については、「社会への浸透がカギとなる」と神田氏は話す。先行している海外では、スターバックスが、コーヒーやラテなどの商品を頼んだ時に発生したおつりを自動的に投資信託に回すおつり貯金アプリを提供。その他にも、FacebookやAmazonのアカウントを使って35秒で審査する与信サービス、個人向け融資サービス、Apple Payなどのスマートフォン用キャッシュレスアプリ、銀行が勝手に預金枠を設定して自動積み立てをするサービスなど多くの事例がある。

 

 海外ではモバイルバンキングの利用率も高く、日本が16%であるのに中国は60%で、上海の利用率は95%だ。少額決済の市場も、Suicaなどの電子マネーが主流の日本と比べて、海外はクレジットカードやデビッドカードが大半を占めている。決済についても、配車サービスのUber(ウーバー)のようにすべてがスマートフォン上で終了する透明化が加速中だ。また、レジに人がいない無人コンビニ「Amazon GO」が登場し、決済手続きすら排除する流れが出てきている。ボタンを押すだけで商品が届くAmazonダッシュボタンのように、取引自体も省略されるようになってきた。

 

 これらの状況を鑑みたうえで最後に神田氏は「日本はまだキャッシュレスが進んでいないと思われますが、心配することはありません。中国はたった3年、4年で10億人のうち8億や9億人が使う世界一のモバイル決済国になりました。アメリカでもキャッシュレスが急拡大したのは、13年から16年までの3年間です。20年の東京オリンピックに向けてさまざまな企業がFintechの分野に参入している現実を見れば、日本でもこれから2、3年で大変革が起こると思って間違いありません。われわれもそこに向け、ユーザーフォーカスで事業に参入していきます」と語って講演を終えた。

 

 

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