流通BMSセミナー2018 加速する流通BMS対応に向けて、今するべきこととは

2018.3.05

記事概要イメージ画像

 世界全体で加速するIT化の波は、日本の流通業界にも容赦なく押し寄せている。適切に対処しなければ、自社で扱う商品が今まで通り入荷・出荷できなくなってしまう可能性もあり、小売業と卸売業・メーカーとの間で利用している受発注システムを早急に見直す必要がある。
 18年2月に開催された「流通BMSセミナー2018」では、21年に迫った「IP網移行」と、19年10月の消費税増税に伴う「軽減税率」の導入についての説明がなされた。導入事例では、日用品・化粧品メーカーの花王グループと小売大手のイオングループが、流通BMSへの対応状況とそのメリットについて紹介した。今回は東京会場での模様をレポートする。

  • 1

「INSネット(ISDN)データ通信」の終了が24年1月に確定

 プログラムの最初は、NTT東日本 ビジネス開発本部 第一部門ネットワークサービス担当課長の山内健雅氏が、固定電話のIP網への移行後のサービスと移行スケジュールについて説明した。

 

 ここ数年、流通BMSセミナーでは「INSネット ディジタル通信モード」の終了について繰り返しアナウンスをしてきた。今回のポイントは終了時期が「24年1月」と正式に確定・公表されたことにある。予定どおり25年にはIP網に完全移行し、これまでのディジタル通信モードは廃止となる。

 

 ただし、24年1月までにISDN対応端末の更改が間に合わない場合、10年程度の時間的余裕を確保したうえで、データ通信の補完策を27年頃までを目処に提供することを検討している。山内氏は「補完策では現行のINSネットとは通信品質が異なるため、場合によっては速度が遅くなる可能性もある。このことを理解し、検証してから使って欲しい」と語った。

 

 「INSネット ディジタル通信モード」の終了と言われても、自社が対応しているかどうかがわからない企業も多い。基本的にはEDI、POSレジなどが対象になるが、すべてがディジタル通信モードを利用しているとは限らない。自社の環境を確認する方法は「DSU」や「TA」に接続されている機器の構成や、NTT東西の請求書で調べる方法などがある。詳しくはホームページなどで確認ができる。

 

 NTT東西では今後、サービス終了に向けた周知活動もチラシやDMなどを通して積極的に展開していく。また、企業に対してもNTT東西の営業担当から直接呼びかけていく考えだ。最後に山内氏は「今回のタイミングを、改めて自社の通信環境を見直す機会とし、次のシステム更改に向けて、できるだけ早く検討して欲しい」と呼びかけた。

 

 

中小企業対象の軽減税率対策補助金の受付が19年6月28日まで延長に

 続いて、19年10月に予定されている消費税の増税に伴う軽減税率対策の補助金について、独立行政法人中小企業基盤整備機構 経営支援部 消費税軽減税率対策費補助金統括室の前田和彦氏と清水敬広氏が説明した。

 

 軽減税率対策補助金とは、消費税率が10%に引き上げられるにあたって実施される複数税率に対応するための補助金のこと。複数税率実施後は標準税率(10%)と軽減税率(8%)を区分して経理処理する必要があるため、発注・受注システム(EDI)やPOSレジの改修が必要となる。補助金制度では、それらの費用の一部を国が補助する。

 

 制度の対象となるのは、飲食料を扱っている卸売業・小売業等の「中小企業」で、資本金や従業員数に条件がある。前田氏は「大企業でも日頃EDIで取引している中小企業が対応していなければ業務に支障が出るので、大手の卸売業者は取引先の中小卸・メーカーに呼びかけて欲しい。補助金の申請にはITベンダーの協力も必要になるため、ITベンダーからも取引先に積極的に告知して欲しい」と訴えた。

 

 制度の適用は、現在使っている受発注システムを改修する場合に限られ、ITベンダーに改修作業を外注する費用が対象となる。補助金の上限額は、対象経費の3分の2で、発注システムなら1,000万円、受注システムなら150万円、受発注システムの両方なら合わせて1,000万円と決められている。

 

 軽減税率対策補助金は16年4月に申請の受付を開始し、18年1月末でいったん終了したが、その後受付が19年6月28日まで、事業完了が9月30日まで延長された。申請を代理するITベンダーも増えており、18年1月時点で409社に達している。清水氏は「インボイス対応も同時に実施すれば2重投資も避けられる。補助金制度の期間延長の機会を逃さず、ぜひ活用して欲しい」と呼びかけた。

 

 

標準外利用を抑止する「マッピングシート」体制を確立

 続いて、流通システム開発センター 流通BMS協議会事務局の坂本真人氏が流通BMSの最新動向を解説した。

 

 流通BMSの導入企業数は、社名公開数で小売業が197社、卸売業とメーカーが227社(18年1月現在)まで増え、卸・メーカーについては推計値で1万1,441社となっている。坂本氏は近年のポイントについて「標準外利用の抑止」「IP網への切り替え」「金融業界との連携」の3つを挙げ、それぞれについて解説した。

 

 流通BMSが普及するにつれて問題となってきたのが「標準外の利用」で、普及の障壁となっている。そこで流通BMS協議会ではマッピングシートを作成し、事前にチェックする体制を整えた。現在までに24社の審査が終了し、9社が審査中となっている。

 

 もう1つのポイントはIP網への対応だ。NTT東西の発表のとおり、24年1月には「INSネット ディジタル通信モード」が終了するが、公衆回線のIP網への切り替えは21年1月から始まる。「他事業者とのIP接続では、相手先が先にIP網に切り替えると変換の遅延が発生する可能性があるため注意が必要になる」と坂本氏は注意を呼びかけた。

 

 業務改革の流れが進む一方で、システム化が送れている領域が経理業務だ。そこで流通業界では金融業界と連携し、金融EDIを活用した「売掛金入金管理」と「販売条件・リベート管理」の効率化を14年に検証した。その結果、小売の入金で61%の工数削減、卸の売掛金管理で年間1,680時間の削減が実現している。今後、20年までに全銀フォーマットが流通BMSと同じXMLに移行し、18年には新システムが稼働する予定だ。坂本氏は「実運用に向けて18年3月を目処にEDI情報欄を標準化し、19年度には金融ASPとの接続テストを検討している」と説明した。

 

 

 

花王グループが流通BMS対応を急ピッチで加速している理由とは?

 導入事例では、メーカー・卸売業の立場から、花王グループカスタマーマーケティング カスタマートレードセンター 流通システムコラボG マネジャーの川口和海氏が花王グループの状況を発表した。

 

 04年に始まった流通BMSの共同実証から参画してきた花王グループは、17年度は「早期導入推進」「啓蒙活動継続」「現状課題対策」の3つに取り組んできた。その結果、17年度の導入企業数は前年度の283社から約100社増えて380社となり、前年度までの実績を大きく上回った。導入企業の売上構成比では約51%が流通BMSに対応したことになる。取引先の主要600社の推移状況をみても企業数の約70%、売上の91%が流通BMSを導入済みまたは導入予定となっている。導入企業では双方の取引業務が効率化され、伝票レス、返品入力作業削減などが実現した。

 

 とはいえ、軽減税率の対応が19年10月に迫る中、残された期間は2年弱しかない。流通BMS未導入の600社すべてに導入するためには、年間300社、1日1社以上のペースで進めなければならない。開発担当者の数も不足し、かなり厳しい状況だ。流通BMSの導入にはトラブルも付きもので、過去の経験から8割、9割は遅延するという。その要因は、マッピング修正、テストの不具合、スケジュール調整、基幹システムの改修などがある。こうした状況を受けて川口氏は「早めの準備が必要」と語った。

 

 流通BMSの未対応の企業への対応としては、小売業、卸売業、システム会社の3社が積極的に動くことが重要だ。未導入の企業はそもそもITベンダーからの提案がなかったり、取引先からの要請がなかったりで、流通BMS自体を知らないことが多い。そのためにも各業界団体での啓蒙活動が必要だ。

 

 取引業務の効率化に向けては、流通BMSの標準を遵守することも忘れてはならない。流通インフラを標準化し、販売・物流の領域で他社と差別化をはかることを目的とする流通BMSでは運用ガイドラインを守ることが大前提。スムーズな導入を実現するためにも流通BMS協議会が推進するマッピングチェックを受けることが推奨される。川口氏は「現状は、仕様を確定してから開発・テストに着手するのが一般的だが、確定後は仕様変更が困難で、修正等による延期が発生し、ベンダーの負担も増加する。先にマッピングチェックを受けてから仕様を確定すれば、問い合わせが減り、導入期間も短縮できて、ベンダーへの負担も軽減される」と語った。

 

 今後の展開としては、返品受領メッセージの「卸・メーカー開始型モデル」と、出荷梱包紐付ありの「出荷開始型モデル」を、チェンジリクエストで標準運用に追加し、バリエーションを拡大していく考えだ。また、19年10月に予定されている消費税増税に伴うインボイス制度暫定処置と、23年10月のインボイス制度の開始に向けたシステム対応の2重投資の回避に向けて、インボイス対応の標準化を進めていく。最後に川口氏は「流通BMSの普及が流通全体の最適化につながることを理解して、早期導入をお願いしたい」と訴えた。

 

 

入金消込の共同実証で年間9250時間の工数を削減したイオングループの成功事例

 小売業側からは、イオン本体と関連会社約300社からなるイオングループで、ITサービスとシェアードサービスを展開するイオンアイビス ITソリューション開発本部 本部長の小林謙太郎氏がイオングループの取り組みを紹介した。

 

 イオングループも04年の次世代EDI標準化ワーキンググループに参画し、早期から流通BMSに取り組んできた。13年6月には全取引先約3,500社の導入を終え、JCA手順のEDIシステムを停止している。導入の結果、通信回線は東西40本のISDN回線がベンダーとの専用回線に一本化され、通信速度は10分の1となった。発注データの取引先への連携時間は、以前の最大2時間から10分に短縮され、物流センターへの荷受時間も最大2時間短縮された。完全EDI化で伝票も月間90万枚が減り、検品作業や消込作業も自動化されて事務作業の負担も軽減されている。

 

 その後、イオングループは、14年に実施された商流EDIと金融EDIが連携して入金消込の効率化を検証する実証実験に、他の小売業者や花王グループなどの卸・メーカー、ITベンダーなどとともに参加。販売条件・リベート管理において、効果測定項目の自動消込率43.2%、消込補助ありで29.6%を実現した。小林氏は「作業工数でみると、入金消込業務は年間9,000時間、入金処理業務は年間250時間、合わせて年間9,250時間が削減され、削減率で61%が実現した」と語る。

 

 この結果を受けて14年度以降も実運用に向けた活動が継続し、現在も金融業界のXML対応や、18年12月の稼働を目指す金融・ITネットワークシステムの開発を視野に入れながら、EDI情報欄の標準化と、金融ASPとの接続テストに取り組んでいる。

 

 また、19年10月に迫った消費税増税と軽減税率の適用に向けて、現行の発注/出荷/受領/返品メッセージの対応、請求/支払メッセージの対応、インボイスへの対応を検討していく考えだ。その他、イオングループ独自の課題として、値札やPOSの売価表示方法、イートインの対応、小数点以下の考え方、Webやネットスーパーへの対応などを挙げている。

 

 最後に小林氏は今後の方向性として、「多業種とのデータ連携による事務作業の効率化と、商品マスター、商品画像、品質情報の連携による全方位マスター連携とトレーサビリティ対応は18年度の本格稼働を目指す。それと並行して消費税軽減税率対応も流通システム開発センターと歩調を合わせて進めていく」と語って講演を終えた。

 

 

  • 1