軽減税率対応に向けて日食協独自のガイドラインを整備

2019.8.09

日本加工食品卸協会
専務理事

奥山 則康 氏

三菱食品
情報システム本部長付 主幹
日本加工食品卸協会 
軽減税率対応システム専門部会 座長

大久保 敏男 氏

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 2019年7月の参議院選挙が終わり、予定どおりの実施が見えてきた消費税増税。食品業界で課題になっているのが8%と10%の税率を使い分ける軽減税率対応だ。加工食品卸売業が加盟する日本加工食品卸協会(日食協)では混乱なく対応するために「軽減税率対応システム専門部会」を設置して独自のガイドラインを整備している。同時に流通BMSでの対応を目指してチェンジリクエストを申請し、新たな運用ルールを追加した。現在の状況について、日食協 専務理事の奥山則康氏と三菱食品の大久保敏男氏に現状を聞いた。

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独自の「消費税軽減税率対応 企業間取引の手引き」を作成

 全国缶詰問屋協会を母体に77年に設立した日食協。現在は、加工食品流通全般の近代化・効率化および流通構造改革に伴う加工食品卸売業の構造改善推進に関する調査研究事業と研修・普及啓発事業を展開している。組織は会員卸100社、賛助会員129社、その他事業所会員、団体賛助会員を合わせて334社で構成され、全国8つの支部で活動する。85年にはメーカーと卸間のデータ交換の標準化の取組として、酒類食品業界の卸店とメーカー企業間の標準システム「日食協フォーマット」を制定し、メーカーと卸間ではこのフォーマットでデータ交換を行っている。

 

 日食協が現在直面している課題は、物流問題への対応と、消費税軽減税率への対応の2つだ。1つめの物流問題は、トラックドライバーの深刻な人手不足対策と、ドライバーの過酷な労働条件の改善が課題。日食協では業界標準の「トラック入荷受付・予約システム」を立ち上げ、トラックの集中緩和、ドライバーの荷待ち時間短縮、庫内作業の平準化などを進めている。

 

 もう1つの課題である消費税軽減税率への対応は、2年前の17年頃から着手を始めた。日食協は、流通システム開発センターが事務局を務める「情報志向型卸売業研究会(卸研)」に対して、卸売業が進むべき方向性の研究を依頼。卸研からの報告を受けて日食協内で「軽減税率対応システム専門部会」を設置し、対応ガイドラインの作成に着手した。「軽減税率は、日用雑貨品業界からお菓子業界まで幅広く関わります。そこで卸全体のことを考慮して以前の消費税増税でも協力をいただいた卸研に声をかけ、研究報告をもとに日食協内で議論しました」と奥山氏は説明する。

 

 その後、財務省、国税庁、農林水産省などの関係省庁の協力を仰ぎながら独自の「消費税軽減税率対応 企業間取引の手引き」を作成した。18年3月には第1版、18年10月には第2版を完成させ、日食協のホームページ(http://nsk.c.ooco.jp/)からPDFファイルで誰でもダウンロードできるようにしている。

 

 手引きの内容は、軽減税率制度の概要、ポイント、対応ガイドライン、日食協 標準EDIフォーマットの対応、日食協 標準書式の対応、業界標準データベース対応、流通BMS対応などだ。基本的な事項はすべて網羅しているため、これさえ理解すれば一通りの対応が可能だ。

 

 「手引きを使って企業ごとに勉強会を開いたり、経理と営業部門との打ち合わせに利用したりと、さまざまな用途で利用しています。全国の支部が主催する勉強会でも手引きを使って周知を図っていますが、“作ってもらって良かった”といった反響がありました。とはいえ、まだまだ情報が不十分なところがあるので、今後も各省庁から出されるガイドラインやQA集を反映させながら、手引き書の完成度を高めていきます」(奥山氏)

 

 

流通BMS軽減税率対応チェンジリクエストを申請・承認

 一方、日食協は軽減税率対応とINSネット(ディジタル通信モード)の終了がほぼ同時期に迎えることに着目。18年5月には卸研と共同で「流通BMS軽減税率対応チェンジリクエスト分科会」を結成し、流通BMSによる一気の解決を模索した。

 

軽減税率制度では、19年10月にインボイス制度の暫定措置として始まる「区分記載請求書等保存方式」と、23年10月からの「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」と2段階の保存方式制度がある。ところが、インボイス制度に対応するとなると既存システムの改修は避けられない。そこで最初のチェンジリクエスト(CR)は影響範囲が小さい「区分記載請求書等保存方式」への対応を優先することとし、現行仕様への追加・変更は可能な限り抑える方針で検討した。

 

 CRは18年10月に流通BMS協議会に申請し、対応が認められている。その内容は2つある。1つめは、1伝票・単一税率であれば発注・出荷・受領・返品のメッセージ項目・構造は現状のままという「1伝票・単一税率」の運用対応だ。現在の流通BMSメッセージは、1伝票内に異なる税率の商品が混在できないようになっている。そこで軽減税率の8%発注分と、標準税率の10%発注分で伝票を分けて記載するというものだ。

 

 2つめは、請求メッセージで不足している要件を新たなメッセージの追加で考える「請求鑑メッセージ」の追加策だ。現在の流通BMSの請求メッセージでは、税率別の請求金額合計を表現することができない。そこで税額については請求メッセージに必要な要件項目を追加することで対応するというものだ。

 

 2つのCRによって流通BMSを導入済みの小売業者は、システムに手を加えることなく運用の変更のみで「区分記載請求書等保存方式」への対応が可能になる。大久保氏は「流通BMS以外のデータ交換方式を採用している小売業者は、システム改修が発生して影響度も大きくなります。そのため、これをきっかけに流通BMSに切り替える小売業者も出てきているようです。ただし、地方を中心に情報が十分に行き届いておらず、方針が決まっていない小売業者もあります。卸売業者としては、小売業者に早急な対応をお願いしているところです」と話している。

 

 

投資を無駄にしないためにも業界全体で足並みを揃えて標準化の推進へ

 こうした施策の後、日食協では2019年1月に対応準備状況等に対する実態体調査を会員企業に実施した。それによると、軽減税率制度への準備を開始した企業は90%で、システム対応に向けて開発に着手した企業は33%だった。請求書対応については49%が「区分記載請求書等保存方式」への対応を優先し、43%がシステムの2重投資を回避するため23年10月に開始する「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」を見据えたシステム改修を進めているという。

 

 今後は、適格請求書等保存方式(インボイス制度)や返還インボイスの対応に向けて流通BMSのさらなるCRが必要になるという。「インボイス制度では、かなりの高確率でシステム改修が必要になるため、早めに検討会を設けてCRを検討し、早期の解決を目指していきます」と大久保氏は語る。

 

 残された課題としては、メーカー、卸、小売の3者による税率の認識合わせもある。インボイス制度では、税率を決めるのはあくまでも売り手側だ。その結果、売り手の判断次第では、同じ商品でも8%と10%のものが混在してしまう可能性も否定ができない。日食協でも酒類・食品流通業界向けの商品マスターの整備を進めているものの、判断の相違によってメーカー、卸、小売で税率が異なってしまうリスクは残っているという。

 

 このように課題は多いが、残された時間は多くない。そのためにもシステム仕様も業務の運用も帳票類の扱いも個別化は避け、標準を念頭に進めていく必要がある。奥山氏は「ガイドラインの策定から、運用ルールの整備、商品マスターの整備、流通BMSの対応に向けたCRなど、日食協ではこれまでに多くの人とお金を投資してきました。卸売業者各社もシステムや運用の変更に対して相当の投資しているはずです。これらの労力とコストを無駄にしないためにも19年10月の軽減税率対応と23年10月のインボイス対応に向けて、流通業界全体で足並みを揃えて標準化を進めていきましょう」と呼びかけている。

 

 

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