インボイス制度におけるシステム対応はどうすれば良いか ~財務省のキーマンに訊く~

2018.6.15

財務省
主税局税制第二課
課長補佐

加藤 博之 氏

一般財団法人流通システム開発センター
ソリューション第2部
部長

坂本 真人 氏

記事概要イメージ画像

 2019年10月の消費税率10%への引上げと同時に、酒類・外食を除く飲食料品と一定の新聞の譲渡を対象に消費税「軽減税率制度」が実施される。また、その4年後の2023年10月には適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)が導入され、事業者は対応を迫られるようになる。まだまだ先のように思えるが、システム改修等のこと考えると長くない。
 そこで、財務省主税局から加藤博之氏、流通BMSの普及を支援する流通システム開発センターから坂本真人氏を招き、「インボイスとは何か」といった基礎から、インボイス制度に対応する際に注意すべきポイントまで、座談会形式で語ってもらった。

  • 1

インボイスとは正確な適用税率・税額を伝えるもの

坂本氏

 流通業界でも「適格請求書(インボイス)」について理解している人は多くないように思います。また、巷ではインボイスについて、様々な理解や説明を聞きますが、事実と異なる誤った認識をしているものも少なくないように思います。そこで「インボイスとは何か」一言で説明するとどうなるのでしょうか。

 

加藤氏

 インボイスとは、「売り手が、買い手に対して、正確な適用税率・税額を伝えるもの」であり、一定の事項が記載された請求書等の書類をいいます。要すれば、インボイスのやり取りによって、適用税率等について「売り手」と「買い手」の認識を一致させることになります。このインボイスについて、「売り手」は課税事業者である「買い手」からの求めに応じて「交付する義務」が生じることになります。

 また、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除の方式として導入されるもので、仕入税額控除を受けるために、インボイス等の保存を必要とする制度になります。

 

坂本氏

 このインボイスに記載する一定の事項とは何でしょうか。また、もし受け取ったインボイスの記載内容に誤りがあった場合、どうすればいいのでしょうか。

 

加藤氏

 現行の「請求書等」に求められる記載事項に加え、「登録番号」、「軽減税率対象である旨」、「対価の額を適用税率ごとに区分して合計した金額」、「適用税率」、「消費税額」を記載する必要があります。

 記載内容に誤りのあるインボイスを受け取った場合、仕入税額控除を行うには、「売り手」から正しい内容に修正された「修正インボイス」の交付を受ける必要があります。「買い手」が一方的に記載事項を修正することはできません。また、「売り手」は交付したインボイスに誤りがあった場合、「買い手」からの求めがなくとも「修正インボイス」を交付する義務が生じることとなります。この点、現在でも請求書のやり取りの中で記載内容に誤りがあれば修正依頼等を出しているはずですから、現行の運用と大きく変わることはないと思います。

 

 

記載事項を満たすものであれば納品書も領収書もインボイスとなる

坂本氏

 インボイス制度においては、わざわざ「請求書」を「インボイス」として交付しなければならないということでしょうか。仮にそうであれば事務の効率化に随分と水を差す制度となります。例えば百貨店は「消化仕入」という形で請求行為がなくとも支払いを行っている実態がありますが、この場合も「請求書」を「売り手」が交付するべきなのでしょうか。

 

加藤氏

 まず、インボイスは「請求書」である必要はありません。書類の名称や様式を問わず、インボイスに必要な記載事項を満たすものであれば、納品書や領収書であってもインボイスとなります。「EDI取引」や「請求レス取引」の場合も、わざわざ「請求書」をインボイスとして交付する必要はありません。取引先とやり取りしている何らかの「書類」や「電磁的記録(データ)」でインボイス記載事項を満たしていれば良いことになります。その際、複数の「書類」や「データ」の関連性を明確にした上で、インボイスの記載事項を満たしていればそれらを一体でインボイスとすることもできます。「書類」と「データ」の組み合わせでも問題ありません。

 

 ご質問にあった消化仕入について、例えば「買い手」が「仕入明細書」を作成し、「売り手」の確認を受け、それを保存しておくことでも仕入税額控除を行うことが可能です。この確認を受ける方法として、実務上は「送付後〇日以内に誤りのある旨の連絡がなければ確認があったものとします」と明記しておく方法も認められます。なお、仕入明細書は、書類やデータの流れが「買い手」→「売り手」の方向となり、インボイスの「売り手」→「買い手」の流れとは逆になりますが、「仕入明細書」を「売り手」に交付し、「売り手」の確認を受けることになる上、「仕入明細書」の記載事項はインボイスと同様ですので、仕入税額控除に必要な書類として認められることになります。

 

坂本氏

 「仕入明細書」が認められることで実務面では幅をもったインボイス対応が可能となると考えられますね。流通業界における典型的な例としては、インボイスの記載事項を満たした「納品書をインボイスとする」方法や「月締めの請求書をインボイスとする」方法などが考えられますが、どのようなインボイスの出し方が望ましいのでしょうか。

 

加藤氏

 何をインボイスとするかは、事業者の皆さんが取引先の方とやりとりしている「書類」や「データ」に応じ、様々なパターンがありますので、一概にどのような方法が望ましいとは申し上げられません。ただ、あくまで個人的な意見を申し上げれば、流通業界において、「納品書」に消費税額が明記されているものがほとんどないという現状を考慮すれば、「納品書」と「月締めの請求書」を一体でインボイスとすることがシンプルな方法だと思います。現行の「納品書」には、取引年月日や取引内容、「軽減税率対象である旨」を記載し、「月締めの請求書」には「消費税額」や「適用税率」などそれ以外のインボイスの記載事項を記載するという方法が考えられます。

 

坂本氏

 まずは取引先等との取引実態を踏まえ、何を「インボイス」にするか、それぞれが考えるということですね。ところで、現行制度(消費税法上)において、仕入税額控除を行う上でEDI取引におけるデータは保存しておく必要がなかったと記憶していますが、インボイス制度後も同様でしょうか。

 

加藤氏

 現在、消費税法では「請求書等」は紙ベースで保存することを義務付けています。したがって、「請求書等」を電子メールやEDI等、データで受領した場合、請求書等(書類)の交付を受けられなかったことにつき「やむを得ない理由がある」として、「請求書等」を紙で保存しておかなくても、「帳簿のみ」の保存で仕入税額控除を行うことが認められています。他方、インボイス制度後は、いわゆる「電子インボイス」が法定されることから、仕入税額控除を行うためにはデータを「電子インボイス」として保存しておくことが求められます。ここは現行制度と大きく異なるところですから、しっかり理解しておいてください。

 

 なお、今回のインボイス制度によって消費税法上、データ保存が必要になったからといって、何か新しいことが起こるわけではありません。今まで電子取引について、データの保存が電子帳簿保存法(所得税法・法人税法)では求められていたので、これに対応してデータを保存している場合には、インボイス制度後も同様の方法で保存することになり、結果的には「現行と同じ方法で保存してください」ということになります。

 

 

返品があった場合、「返還インボイス」の交付が必要

坂本氏

 通常の取引は理解できました。小売業ではよくあることですが、「返品」があった場合のインボイス対応はどうすればよいのでしょうか。

 

加藤氏

 返品や値引き等があった場合、原則として「売り手」は「買い手」に対し「適格返還請求書(返還インボイス)」を交付する必要があります。この返還インボイスの記載事項のうち、「返品等に係る課税資産の譲渡等を行った年月日」すなわち、「返品の起因となった売上の年月日」については、実務上、正確な「年月日」を特定して記載することが困難な場合も想定されます。そこで、「売り手」の課税期間の範囲内で一定の期間、例えば、「○月売上分」などの記載も認める運用を行う予定です。

 

坂本氏

 「返品」を行った場合、流通BMSでも薬などの一部の商材は、「売り手」から「買い手」に返品受領メッセージを返す運用をしていますが、加工食品やいわゆる日用品などは、小売業者(買い手)が返品伝票を送付しても、卸売業者(売り手)からはレスポンスしない、という運用が当たり前になっています。したがって「返還インボイス」に対応しようとすると、「売り手」から「買い手」に対する、新たにメッセージを送る機能を追加するなどの対応が発生しそうですが、何か対応策はありますか。

 

加藤氏

 原則として、返還インボイスは「売り手」が「買い手」対して交付するものです。しかし、坂本さんがおっしゃったように、業界によっては、返品に関し「売り手」から何もアクションを起こさないという実態があることを踏まえ、返還インボイスの内容について、「買い手」が作成する「仕入明細書」の中で記載することも認める予定です。これは、先ほども説明した通り、「仕入明細書」は「売り手」の確認を受ける必要があるため、「買い手」が返還インボイスの記載事項を記載した「仕入明細書」を「売り手」に提供し、確認を受けた場合、「売り手」と「買い手」の双方で同一の書類を保有することとなるため、実質的に返還インボイスの交付があったものと考えられるためです。従って、坂本さんが心配された、返還インボイスに対応するためだけに、新たなメッセージ送付機能を設けるという対応は必ずしも必要ありません。ただし、これはあくまでも運用上の取扱いで、消費税法上は「売り手」が「買い手」に対して返還インボイスを出す原則は変わりません。

 

 

消費税額の端数処理は「一請求あたり、税率区分ごとにそれぞれ1回」

坂本氏

 最後に、インボイスに記載する消費税額の「端数処理」について重要な点なので確認させてください。インボイスに記載する消費税額の「端数処理」について、「一請求あたり、税率区分ごとにそれぞれ1回」と理解していますが、「一請求あたり」をどう考えるかはなかなか難しい問題です。例えば、「納品書」と「月締めの請求書」を一体でインボイスとする場合、「納品書」ごとに消費税額を計算し、端数処理も行いますが、「納品書」には消費税額を記載せず、「月締めの請求書」において、納品書ごとに端数処理をした後の消費税額を足しあげた金額のみを記載し、インボイス記載事項の「消費税額」とするというようなことは認められますか。

そのほか、「端数処理」に関し注意すべき点があれば教えてください。

 

加藤氏

 まずご質問の「消費税額」の記載方法について、そのように計算され、記載された消費税額は、インボイスの記載事項としての「消費税額」としては認められません。そのような場合、「月締めの請求書」においては、「納品書」の税抜(又は税込)の対価の額を合算した金額(=「対価の額を適用税率ごとに区分して合計した金額」)を計算し、それに対し(税込の場合は税抜金額に割戻した上で)適用税率を乗じ、端数処理をした消費税額を算出し、記載することが適切な方法です。

 「端数処理」に関し注意すべき点について、例えば既存システムで、個々の商品ごとに端数処理をした消費税額を算出し、消費税額の合計欄は商品ごとの消費税額を足しあげるという演算式を組んでいる場合には、対価の額の合計金額に税率を乗じ、端数処理をした消費税額を算出するようにシステム改修を行う必要があるので注意してください。個々の商品ごとに端数処理し、これをインボイス記載事項の「消費税額」として記載することは認められないためです。ただし、「インボイス記載事項」ではなく、あくまで「参考事項」として、個々の商品ごとに消費税額を記載することは自由です。

 

 

軽減税率・インボイス制度への対応は早めに準備を

坂本氏

 ありがとうございました。

 流通業界の中には軽減税率制度やインボイス制度について「まだ時間はある」という意識があり、理解・準備が進んでいないのが現実です。

 

加藤氏

 「まだ時間はある」といっても、例えば2019年10月に実施される消費税軽減税率制度について言えば、システム改修(テスト期間も含む)などハード面の対応もさることながら、経理担当者も含めた従業員の教育や飲食料品を扱う小売店を中心に現場のオペレーションを考える等ソフト面の対応も必要です。直前の準備は想定以上の「時間」と「金銭」面でコスト負担が生じかねない等の懸念もありますから、今のうちから計画的に準備を進めることを考えておいたほうが良いと思います。

 

坂本氏

 2019年10月からは、インボイスの経過措置である「区分記載請求書等保存方式」が始まります。システム対応には一般的に半年から1年はかかりますから、4年後のインボイス制度の対応も合わせて一気に改修しようとした場合、今年中に準備を始めておかなければ対応は難しいでしょう。ましてや労働人口の減少が叫ばれている中、SEの確保もままなりません。加藤さんのおっしゃるように想定外の「時間」と「金銭」面でコストが生じる可能性がありますね。

 

 私たちも軽減税率制度やインボイス制度におけるシステム対応について遅れをとってはいけないと考え、軽減税率制度に関する各種資料が公開されると同時に、各業界団体に働きかけて、現行の業務運用に照らし合わせ問題点等の整理を依頼しました。まずは2019年10月までに最低限必要となる受発注部分への影響、そして2023年10月のインボイス制度への対応を進めました。昨年より整理した問題点等を基に、何度も財務省にご相談しながら実運用での解決策等を整理し、業界ごとにガイドラインを作るなど周知する環境を構築しています。

 流通事業者にはできるだけ早く軽減税率制度やインボイス制度への対応を準備していただきたいと思います。

 

  • 1