複数税率への対応を契機に流通BMSへの切り替えを

2016.5.17

経済産業省 商務情報政策局
商務流通保安グループ 流通政策課
課長補佐(総括・企画担当)

大竹 真貴 氏

経済産業省
中小企業庁 事業環境部 財務課
課長補佐(企画調整担当)

内野 泰明 氏

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 2006年に経済産業省の流通システム標準化事業として産声をあげた流通BMS。08年に流通システム標準普及推進協議会へと運営が引き継がれてから約8年が経ち、大手小売業を中心に導入が進んできた。一方で、資金が少なく、IT人材も豊富でない中小の小売業は、流通BMSの導入がなかなか思うように進んでいないのが現実だ。
 17年4月の消費税増税に伴う軽減税率の適用も迫り、小売業は複数税率への対応や、インボイス方式への対応が迫られている。こうした状況の中、日本の産業振興の旗振り役である経済産業省は、流通BMSの現状に対してどのような認識を持っているのか。担当者に話を聞いた。

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流通BMSは流通業の業務効率化にメリットがあり

 流通BMSの普及を後方から支援している経済産業省。流通BMSの普及状況について、大竹氏はこう見ている。

「大手企業への導入が一巡した今は、中小の流通業への普及がカギとなっています。ただ、流通BMSはシステム更新を伴うものですので、一斉に切り替わることは難しいと思います。また、経営に余力がないと踏み切れない側面があり、それが中小企業の切り替えを阻んでいる要因になっているのではないでしょうか」

 

 確かに中小の流通業ほど電子化のメリットは実感しづらく、切り替えまでのハードルは高い。しかし、流通BMSは中小の流通業にこそ、業務効率化に効果があると大竹氏はいう。経済産業省が中小企業・小規模事業者に対して、経営課題について調査したアンケート結果(16年1月実施)では、小売業・卸売業ともに「本業の生産性の強化」を最重点課題に挙げ、販売状況や損益状況の把握や、顧客ニーズの把握に取り組んでいることが明らかになっている。ITの利活用については文書管理系や給与・経理業務系のシステムに投資はしているようだが、受発注情報管理系(EDI)の活用は目立って多くない。これについても大竹氏は「中小の流通業は日々の業務に手一杯で、長期的なIT戦略や効率的な投資まで手が回りにくい、あるいはそうした発想がしづらい状況に置かれていることが想像できます。経済産業省としては、IT化のメリットをいかに中小の事業者に伝えていくかを課題として、さまざまな施策を考えています」と説明する。

 

 こうした状況の中、経済産業省が提出した「中小企業等経営強化法案」が16年3月に閣議決定され、第190回通常国会で審議されている。「中小企業等経営強化法案」とは、中小企業・小規模事業者・中堅企業の経営強化を図るため、事業所管大臣が事業分野ごとに経営力向上の方法等を示した指針を策定し、各社の取り組みを支援するというものだ。各社の事業計画には、商品・サービスの見直しのための顧客データの分析、ITを活用した財務管理の高度化などを盛り込むこととしており、計画が認定されれば、税制や金融支援等の措置を受けることができる。「法案が成立し、その後、公布から3ヶ月以内に施行されてから具体的な取り組みがスタートすることになるが、この法案も活用しながら、中小の流通業のIT化を支援してまいります」と大竹氏は語っている。

 

 

複数税率への対応時、インボイスへの対応時のタイミングで切り替え

 そもそも流通BMSは、製造業、卸売業、小売業と異なるプレーヤーが共同で効率化を図り、生産性の向上を図るために生まれたものだ。流通をサプライチェーンの流れで見れば、情報のやり取りの無駄を解消するツールが流通BMSということになる。そのため、経済産業省でも流通BMSの普及を加速させてサプライチェーン全体で生産性を高めて付加価値を生み出すことが重要と捉えている。

 

「流通事業者は当然、個社単位で利益を追求していると思いますが、経済産業省は、個社最適や部分最適でなく、全体最適で流通業全体の生産性を高めることが重要だと考えており、そのための仕組みとして流通BMSを位置付けています。全体最適になれば、その果実は巡り巡ってすべての流通事業者まで届くことになりますので、流通事業者の皆様の協力が重要なのです。」(大竹氏)

 

 流通BMSへの切り替えのきっかけとしては、17年4月の消費税増税に伴う軽減税率への対応時、21年度の適格請求書等(いわゆる「インボイス」)の導入時、20年のINSネット(デジタル通信モード)のサービス終了時の3つを挙げている。

 

「流通BMSへの切り替えについては、2017年4月に始まる軽減税率が1つの目安となるでしょう。準備にかかる時間や費用と業務の効率化を天秤にかけながら、流通BMSへの切り替えについて、早めに検討することが重要です。あるいは複数税率対応は最低限の改修で対処しておき、21年度のインボイス導入に向けて長期的に切り替えていくことも考えられます。さらに、INSネット(デジタル通信モード)がサービス終了する20年を目安にしてもよいでしょう。どのタイミングで切り替えるかは、各社の事情に合わせて検討していただくことになります」(大竹氏)

 

 早々に迫った軽減税率に対応するためには、8%と10%の複数税率に対応しなければならない。また、区分記載請求書等の要件を満たさなければ仕入税額控除ができなくなるため、複数税率対応のレジが必須となる。受発注システムについても、改修が必要になる場合が多い。特にJCA手順で運用している小売業はほぼ待ったなしの状況になるため、複数税率への対応に合わせて流通BMSに切り替えるならいい機会だ。

 インボイスが導入される21年度も流通BMSに切り替えるチャンスとなる。インボイスとは、登録事業者の氏名及び登録番号、取引の内容、対価の額、軽減税率の対象品目である旨、税率ごとに合計した対価の額、消費税額を記載した書類(請求書、納品書その他これらに類する書類)である。20年度までは経過措置として今の請求書等に近い区分記載請求書等を用いることとされているが、21年度以降はインボイスを発行してもらわなければ仕入控除ができなくなる。現状の流通BMSにはインボイスに対応するための事業者番号をやり取りする項目がない。運用方式にて対応可能であるかなどの確認が必要となる。

 

 ただし、軽減税率の開始、インボイスの導入、INSネット(デジタル通信モード)サービス終了といった節目の時期は、各社からITベンダーへの対応要請が殺到するため、システム改修のコストが急激に跳ね上がったり、SEが不足して対応が後回しになったりする恐れがある。また、大がかりなシステム改修は、検証などに長い時間がかかることも多く、切り替えるなら今の段階から計画を立て、じっくり取り組むのがよさそうだ。

 

 

軽減税率対策補助金で電子的受発注システムの改修費用を補助

 複数税率への対応については、経産省の中小企業庁でも中小企業、小規模事業者を対象とする対策補助金を用意している。その中身は、複数税率対応レジの導入や、電子的受発注システムの改修などを行うにあたって、その経費の一部を補助するというものだ。

 

 複数税率対応のレジへの補助金は、3分の2の補助率を基本とし、レジ1台あたりの上限を20万円としている。複数台の申請については1事業者あたり200万円が上限だ。

 

 受発注システムの改修は、すでにEDIやEOSの電子的な受発注を利用している事業者が対象だ。ITベンダー等に発注して受発注システムを改修・入替する場合の費用を補助する「指定事業者改修型」と、事業者が自らパッケージ製品やサービスを購入して導入する「自己導入型」の2つがある。補助率はどちらの型も改修・入替にかかる費用の3分の2だが、補助対象範囲外の機能を含むパッケージ製品やサービスの場合は初期費用の2分の1が補助対象経費となり、これに補助率(3分の2)を乗じることとなる。また、発注システムの場合の上限額は1000万円、受注システムは150万円で、両方の改修・入替は1000万円が上限だ。

 

「申請には専用の書類が必要ですので、ホームページ( http://kzt-hojo.jp/ )で概要を確認し、申請の手引きや申請書類をダウンロードしてください。ただし、指定事業者改修型の場合はITベンダー等による代理申請が必要で、着手前の「交付申請」と完了後の「完了報告」が必要です。自己導入型については導入後の事後申請となります」と内野氏は説明する。

 

 このように軽減税率はおよそすべての事業者が対応することになり、小売業や卸売業はシステム改修を含めて何らかの対策が必要になることは間違いない。経済産業省でも周知に努めながら、補助金などを通して中小の事業者を支援していく方針だ。最後に大竹氏は「流通BMSへの対応が遅れている流通事業者のみなさんは、環境変化のタイミングを機に、ぜひ切り替えを検討してください」と呼びかけた。

 

 

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